結構な腕前で!
「あ、でも最初にユリの花で叩かれそうになったから、あのとき花粉が飛び散ったのかも」

 確かにユリの花粉はついたら洗濯しても取れないほどの強烈なものだ。
 ただそれも、触れていないのに飛び散るかは疑問だが。

「全く。彼女には近付かないでください。花粉の塊のような女性ですからね」

「はぁ、そうですね」

 ぴしゃりと障子を閉め、せとかは、すちゃ、とマスクを装着した。

「まぁこの程度なら大したことにはならないでしょう」

 ああ、折角至近距離でのひと時なのに、顔のほとんどが見えないだなんて、と落胆する萌実だが、もともと至近距離に並んでいる横の者の顔など見ないものだ。

「それにしても、彼女に何を言われたのです? そういや昼も絡まれてましたね」

「ああ、う~ん。お昼は私にも何のことやらわからなかったんですけど。どうやら私は、ライバル視されてるようです」

「あ、そうなんですか」

 なるほど、というように納得したせとかに、萌実が慌てた。
 由梨花とライバルということは、萌実もせとみを好いている、ということで。

「ち、違うんです! それは真行寺先輩が勝手にそう思ってるだけで! ほら、私は何の力もないと思ってるから、そんな子が茶道部に入るのは下心があるからだって。で、真行寺先輩からすると、何でかせとみ先輩しか頭にないみたいで、当然のように私もそうなんだと」

 舌を噛みそうになりながらも一気に言う。
 事実なので淀みもない。
 我ながら感心するほどはきはきと、萌実はせとかに訴えた。

「……まぁせとみは人気ありますからねぇ」

「よく言えば人当たりがいいからでしょうか」

「そうですねぇ。僕も悪くはないはずなんですが」

 せとかはそれ以前に存在感がないのだ。
 静かだから、とも言える。
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