結構な腕前で!
第二十一章
 それからの部活中の勉強時間には、せとみの姿はなくなった。
 代わりに道場のほうから、凄まじい物音が聞こえてくる。

「荒れてますねぇ」

「あまりいい傾向ではないですねぇ」

 せとかも、ふぅ、とため息をつく。

「この分では今回のテストも散々ですよ」

 そっちか、と内心突っ込み、萌実はちらりと丸い風流な窓から見える場違いな道場に目をやった。

「毎日あそこまで駆逐してたら、道場解放もしばらく必要ないですね」

「そうですねぇ……」

 どこかぼんやりと言い、せとかは不意に机にもわんと湧いた魔に、持っていたペンを突き刺した。
 相変わらず慈悲の欠片もない。

「南野さん、悪いんですけど、向こうの部屋から壺持ってきて貰えますか?」

「あ、はい」

 一応はるかたちがいなくても、対応できるように壺はある。
 ただはるかたちが扱うよりは、容量が少ないように思うが。

「南野さんにも、壺の扱い方を教わって貰ったほうがいいですかね。南野さんなら、はるかたちより大容量にできますよ」

 萌実が持ってきた壺にペンを突っ込みながら、せとかが言う。
 先程串刺しにされた魔は、しゅっと音を立てて掻き消えた。

「私にそんな力、あるんですかねぇ」

 どうも自分ではよくわからない。
 何となく言ったとき、いきなりぞくりと殺気を感じた。
 顔を上げた途端、正面の障子が、すぱーんと開く。

「北条せとか! 出てらっしゃい!」

 ここまで障子を左右に開け放っての登場が似合う者がおろうか。
 廊下に仁王立ちしているのは、言うまでもなく真行寺 由梨花。
 左手にはユリの花、右手には鋏を持っている。

「何ですか、こんなところまで」

 座ったままのせとかが、袖で鼻を押さえながら言う。
< 198 / 397 >

この作品をシェア

pagetop