結構な腕前で!
「お黙りなさい! あなたこそ何のつもりなのです! やはりこんな裏山では満足せず、目立つ学校のほうに進出しようという肚なのでしょう!」

 びし! と突き付けられる大輪のユリを、せとかはすかさず菓子きりで断ち切った。
 ぼて、とユリの花が畳に落ちる前に、萌実がゴミ箱でキャッチし、すぐに蓋をする。
 強烈な花粉が飛び散ることもなく、ユリは姿を消した。

「さすがです。いや、頼もしい限り」

 せとかがにこりと萌実に笑いかける。
 それだけで、萌実の心はオゾン層をぶち破って宇宙空間に飛び出すほど舞い上がった。

「わたくしのシンボルフラワーを直でゴミ箱に入れるなんて! 許すまじ!」

 びゅっと鋏が、萌実に向けて突き出される。
 ひぃ、と青くなる萌実の腕を、素早くせとかが取った。
 ぐい、と自分のほうに引き寄せる。

「危ないですねぇ。何の用です。せとみはここではありませんよ」

 何気に萌実を庇いながら、せとかが言う。
 しゃきん、とよく磨かれた鋏を鳴らし、由梨花は少し乱れた髪を、ぶん、と後ろに回すと、腰に手を当てて二人を見下ろした。
 せとかと萌実は中腰なので、ただ立っている由梨花が一番高くなっているだけのはずなのだが、威圧感が半端ない。

「せとみ様ではなく、あなたに用があるのです。何です、最近の働きは。魔の本拠地を学校のほうに移すおつもり? 茶道部を学校内に移す肚なのではなくて?」

「……何のことです」

 せとかの眉間に深々と皺が寄る。
 本当に何のことだかわからないのもあるのだろうが、鼻や目が不快になってきたこともあるのだろう。

「本拠地を変えることなど、できるわけないじゃないですか。そんなことができるのであれば、各地の魔スポットを大きな神社や寺に集約すればいい話です」

 魔スポットって何だ、そんなもんあるのか、とせとかに突っ込みつつ、萌実は由梨花を見上げた。
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