結構な腕前で!
「せとみ、ずる~い」

「いっつも先陣切るんだから~」

「「負けてないわよ~」」

 はるかとはるみもハモりながら、道場に飛び込んでいく。

「うらぁ! てめぇら、逃げんじゃねぇ!」

 道場の中から、さっきまでウインクをかましていたせとみの叫び声が聞こえる。
 同一人物だろうか。

「さ、南野さんもどうぞ」

 呆然としている萌実に、戸の前にいたせとかが声を掛ける。

「いやいや、無理でしょ」

「大丈夫ですよ。ここにいるのは昨日の奴とは違って雑魚です。ちょっとした罠で簡単に釣れるものを、ここにおびき寄せて一週間に一度、一気に始末してるんで」

「だからって……」

 後ずさる萌実だったが、丁度中から弾かれたものが飛び出してきた。
 それが萌実に迫る。

「ぎゃーーー!! 嫌ーーーっ!!」

 絶叫した萌実だったが、いきなりぐいっと腕を引かれた。
 そのまま身体がふわりと浮く。

「いつまでも戸を開けてるわけにはいかないんで」

 気が付くと、せとかの両腕に抱き上げられている。
 そういえば、昨日も抱き上げられた。
 せとかの整った顔を至近距離で見上げ、萌実は夢見心地になった。

 だが。
 ぴしゃん、という音に現実に引き戻されれば、そこは道場の中。
 せとかが戸を閉めたのだ。

 萌実を抱き上げたのを幸い、そのまま中に入ったらしい。
 うそー! と萌実はパニックになる。

「ぎゃー! ちょ、何で中にーーっ!」

 ばたばたと暴れる萌実に、何かわからないものがふよふよとまとわりつく。
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