結構な腕前で!
「魔を消滅させるためというよりは、自分の怒りを鎮めるため、というか。自分の苛々を魔にぶつけてるんですよ」

「苛々……? ……あ」

 思い当り、萌実は口を押えた。
 きっとせとかとせとみのやり取りだ。

 せとかが、せとみの気持ちは思い込みの気のせいだ、と言った。
 イトコに入れ上げるなどあり得ない、と。

「なるほど。確かにあれから、せとみ先輩、道場に籠りっ放しですもんね」

「普段ならいいことなんですがねぇ」

 うーん、と悩むせとかに、突然由梨花が、ぱっと立ち上がった。
 風が起こり、せとかがさりげなく顔を袖で覆う。

「何を言っているのです! あなたたちも茶道部員でしょう! 何故せとみ様一人に魔を押し付けているのですか!」

「いや、道場だけですよ。そもそも道場はせとみの管轄です」

「だとしても! あなたたちだって茶道部の一員というなら、協力したらどうなのです! あの状態が聞こえただけで、大変だってわかるでしょう!」

 びし、とキレのある動きで、由梨花が穏やかでない音を発する道場を指す。

「せとみ様が一人で苦しんでいるというのなら、わたくしなら迷わず助けに入りますわよ!」

 叫ぶなり、由梨花は振袖を翻して道場に走っていった。
 着物に高下駄なのに、凄いスピードだ。
 まして山道なのに。

 そういえばあの格好で山の中の茶道部部室まで来たのだ。
 なのにそんなこと一切感じさせないとは、改めて凄い。

「……いいんですか?」

 あっという間に道場に飛び込んで行った由梨花を見送りながら、一応萌実は聞いてみた。
 ふぅ、と息をつき、せとかは空を仰ぐ。

「いっそのこと、真行寺さんに頑張って貰いましょうかね」
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