結構な腕前で!
「せとかっ……。何だよ、こいつは!」

「いいからまずは魔を仕留めてしまってください。南野さん、僕らは掃除をしましょうね。南野さんが掃除してくれれば、しばらくは静かになるでしょう」

 あくまでマイペースに事を進め、せとかは箒でがさがさと床に散らばった魔の残骸を掃いていく。
 萌実はきょろ、と道場内を見回し、隅のほうに置いてあった壺を持ってきた。

「ああ、やっぱり。壺の威力も弱まってます。せとみ、きちんと使ってなかったでしょう」

「うるせぇな。一人なんだから、そんなことまで気にしてられるか」

「そんなことだから、魔が漏れてしまうんですよ。はい、南野さん」

 一旦壺を受け取って中身をチェックしていたせとかが、ぽん、と壺を萌実に返した。

「その中に手を突っ込んで、かき回してください」

「ええええっ?」

 壺の中身は魔の世界だとか。
 そんなところに手を突っ込んだら、向こう側から引っ張られて引き込まれそうだ。

「あ、大丈夫ですよ。南野さんは強いので、そうそうあっちに連れて行かれたりしませんて」

 ひらひらと手を振り、軽く言う。
 言っている内容はなかなか恐ろしいことなのだが。

「本当ですか? 入ってる魔に噛みつかれたりしません?」

「あはは、大丈夫大丈夫。南野さんに噛みついた瞬間、魔のほうが消滅ですよ」

 そうなのか。
 得体の知れない入り口に手を突っ込むのは勇気がいるが、何かあったらせとかが助けてくれるだろう、と、萌実は手を壺に突っ込んだ。
 ぐりぐりとかき回す。

 壺の中身は、何だか僅かにひんやりしていた。
 ドライアイスの煙の中に手を突っ込んだような感じ、というのだろうか。

「はい、これで壺強化です。さ、掃除してしまいましょう」

 萌実には何がどう変わったのか、さっぱりわからない。
 とりあえず、せとかを手伝って、道場内に散らばる魔の残骸を回収していった。
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