結構な腕前で!
 こんなとき気を失ってしまえば楽なのに、実際はなかなか都合よく意識は飛ばないようだ。
 萌実は涙目で、自分にまとわりつくものを打ち払った。

「大丈夫ですよ」

 低い声に、はっと視線を上げれば、せとかが見下ろしている。
 その顔は、最早見慣れたぼーっとした顔ではない。

「暴れないで、ちょっとしっかり掴まっていてください」

 そう言うと、せとかは萌実を抱いたまま、腰を落とした。
 そして、とん、と床を軽く蹴る。

 そのまま、その辺を漂うものを、とん、とん、と軽く飛んで次々かわしていく。
 萌実はただ、せとかにしがみついていた。

「……っと、こんなもんか」

 聞こえた声に、ぎゅっと瞑っていた目を開けると、せとみが扇で己の肩を叩いていた。

「今日は少なかったわね~」

「消化不良です~」

「「それもこれも、せとみが一人で片付けちゃうからよ~」」

 はるかとはるみが、きゃんきゃんと文句を垂れる。
 萌実は相変わらず呆然と、その光景を眺めた。

 初めと違い、道場内は夕日が差し込んで明るい。
 開けたときはやけに暗くて、絶対に入りたくないと思ったものだが。

「南野さん、大丈夫ですか?」

 不意に落ちて来た声に顔を上げれば、萌実はまだせとかに抱き上げられた状態だ。

「あっ! は、はい」

 慌てて降りようとするも、足が震えて転びそうになる。
 それを、せとかが支えた。

「もしかして、怪我しました?」

「い、いえ。大丈夫です」

 とりあえずせとかに手を取られたまま、萌実は改めて道場内を見た。
 もうすっかり怪しげなものはない。
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