結構な腕前で!
「せとかっ! お前、俺を人身御供に仕立て上げようとするのかっ」

 由梨花ににじり寄られ、最早絶叫に近い勢いで叫ぶせとみは、何だか鬼女に今にも食われそうになっている村人のようだ。

「そうでなくて。ちょっとは真行寺さんの言葉に耳を傾けてみなさい、と言ってるんです。せとみ、今までまともに真行寺さんと話してないでしょう」

「こいつとまともに話ができると思うのかっ?」

「せとみが頼めばできると思いますよ」

「俺が何言ったって、こいつはいいようにしか取らない!」

「ポジティブなのは、いいことですよ」

 しれっと言うせとかに、とうとうせとみはブチ切れた。
 がばっと立ち上がるや、だーっと道場を突っ切って扉に向かう。
 元は道場の奥にいたはずが、じりじり動いて扉の横まで移動していたせとかを蹴り倒すと、せとみはそのまま外に飛び出していった。

「……うう……いたたた……」

 蹴られて仰向けに倒れ込んだせとかが、呻きながら起き上がる。

「大丈夫ですか? せとか先輩の意見も意外でしたけど、せとみ先輩も、何か意固地になってるような気がしますねぇ」

 萌実が言うと、せとかは、ふぅ、と息をついた。
 そして上座で不満そうにこちらを見ている由梨花に向き直った。
 向き直ったところで、そちらに行くことはしないが。

「さて。わざわざあなたのほうから我々の本拠地に足を運んでくれたのですから、この機会にちょっと真剣に、今後のことを話し合いましょう」

「望むところですわっ」

 びし、と由梨花が扇で畳を叩き、身体ごとこちらに向き直る。
 何だかこの態度では物騒な雰囲気なんですけど、と思いつつも、萌実は少しだけ道場の中央に寄ったせとかに続いた。
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