結構な腕前で!
「ここにお着物があるでしょう! 何故そのようなだっさい格好をしているんですのっ? わたくしに対する嫌がらせ?」

「いや、できる限り花粉をつけないようにするためで。真行寺先輩の持ち物だったら、否応なしに花粉がついてそうだし」

「失礼ですわねっ! ばい菌みたいに言わないでくださる? 大体この部室に入ったのなら、嫌でも花粉はつきますわよ!」

「それは大丈夫。ぱんぱんするだけで花粉も臭いも落とす洗剤で洗ってきましたから」

 華道部に出入りして、うっかり萌実まで花粉体質になったら困る。
 未来永劫せとかに近付いて貰えない。

 できうる限りの抵抗を試みた結果がジャージである。
 これなら毎日洗えるというわけだ。
 帽子にマスクに眼鏡もしたいところだが、さすがにせとかでもないのに、それは失礼だろう。

「それに、そんな高級な着物、汚しそうで怖いです。まぁ……ちょっと残念ではありますけど」

 着物自体、着る機会もそうない。
 ましてこのような高級友禅、本来部活で着られるなど夢のようなのだ。
 萌実が言うと、由梨花は、ふ、と息をついて鞄を置いた。

「花粉を避けるってことは、あなた自身のためじゃなく、根暗部長のためでしょう?」

「ええ、まぁ」

 ぽりぽりと頬を掻きながら言うと、由梨花は、はあぁ、と聞こえよがしに特大のため息をつく。

「あの人に、そこまでする価値があるのかしら」

「どうでしょう。ただ真行寺先輩だって、せとみ先輩が花粉症だったら、ちょっと考えるんじゃないですか?」

「……」

 着物に着替えながら、由梨花が首を傾げた。

「難しいですわね。わたくしにとって華道は最早切り離せないものですもの。せとみ様に慣れて貰うしかないですわ」

 アレルギーというのは、時に命に係わるものだ。
 慣れでどうこうできるものでもないと思うのだが。
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