結構な腕前で!
「確かに言われてみればそうですね。でも先輩も素手じゃないですか。あの壺、茶道部のみたいに持ち運べませんし、先輩だってあそこまで持って行ってるんでしょう?」

「馬鹿仰い。魔なんて触れるわけないでしょう。汚らわしい」

 そう言って、由梨花はしゃきん、と鋏を鳴らした。

「花鋏は、最早わたくしの手そのものなんですのよ」

 つまり、鋏で挟んで壺に落とすということか。

「何か、切れて切れていつまでも壺に辿り着かなそう……」

「ド素人ならそうでしょうね。わたくしに限ってそんなこと、あるわけないでしょう」

 しゃきん、しゃきんと景気よく花の茎を切っていく様子を見ても、鋏は扱い慣れているのだろう。
 無造作に切り刻んでいるように見えて、きちんと計算されている。

---華道の腕は本物なんだなぁ---

 変人っぷりしか知らなかったが、なるほど、ちゃんと華道もできるようだ。
 数種類の花を綺麗に花器に活けていく。
 とはいえ、萌実には華道の心得などないので、それなりに活ければ、それなりに見えてしまうのだが。

「あなたは化け物並みの力があると、根暗部長が言ってましたわね」

 ついついぼーっと由梨花を見ていた萌実に、視線は花に落としたまま、由梨花が言った。

「それが、さっきの行動ってことかしらね」

「さっき? あ、魔付きの花のことですか。そんなに凄いことですか?」

「凄いというか、無神経というか。普通は魔って、襲い掛かってくるものなんですのよ。普通の人は見えないから、言ってしまえばちゃちい魔なら実害はないんだけど。見えなきゃ驚くこともありませんしね。見えたら恐ろしいでしょう。新入部員もそれが原因で軒並み辞めたのだし。それなのに、そんなものがついた花を、離すでもなく普通に壺に突っ込むし」

 褒められているのか、けなされているのか。
 少なくとも、手放しで褒められてはいない。
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