結構な腕前で!
「う~ん、でもこんなに落ち着きがないのは問題ですわ。心を落ち着けてこそ、お花が生きるのですから……て、聞いてらっしゃるの?」

 畳に蹲る萌実を、引き抜いたユリでばしんと叩く。
 ぶわ、と花粉が舞った。

 すかさず萌実は、ぱんぱんとジャージを叩く。
 次いで、くんかくんかとその部分に鼻をつけた。

「失礼ね! 何ですの、その汚いものでもついたかのような反応は」

「汚くないですけど、せとか先輩ブロックになるものは害でしかないです」

「あなたがそうであっても、根暗部長にその気がないのであれば、害も何もないでしょ」

 またも心をざっくり斬られ、萌実はがっくりと項垂れた。
 最早瀕死である。

「でも少なくとも、私の力は必要なはずだもの~」

 泣きながら言うと、由梨花はちょっと訝しげな顔をし、哀れみを湛えた目で萌実を見た。

「あの根暗部長にそこまで尽くすあなたが、何か可哀相になるわ。これっぽっちの見返りも求めずに」

「いや、あの。いちいち言葉がキツイです」

「お黙りなさい。馬鹿なあなたの目を覚まして差し上げるのよ」

 あまりこの変態に『馬鹿』とか言われたくない、と内心思いながらも反撃する気も失せ、萌実は畳に突っ伏したまま口を噤んだ。
 それにしても、せとかの気持ちはどうなのだろう。

 お茶に心が現れるとはいっても、そこまではっきり『誰を好いている』とか出るわけではないだろう。
 心の動揺とか、そういう心理状態のことではないのか。

---まぁそれでも、せとか先輩にお点前教えて貰って点てたお茶は、確かに動揺してるかもだけど---

 後ろから手を添えて教えて貰って、平然としてなどいられようか。
 作法など、さっぱり頭に入ってこないのだから。

---私が点てたお茶、いっつも動揺してる味がするな、とか思われてんのかな。つか動揺してる味って何さ。そんな変な味なら言うだろ、普通---

 そこは萌実に興味がないからだ、とかは関係ないはずだ。

「興味がないわけではない……はずです」

 ぼそ、と言い、萌実は突っ伏していた身体を起こした。

「興味はあるはずです。何せ私は、強力なカンフルですから」

「……あなた、そんな存在で満足してらっしゃるの?」

 思いっきり哀れみの目で見られ、今度こそ萌実は畳に沈んだ。
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