結構な腕前で!
「で、萌実ちゃんが不良になったってどういうことだよ。あんた、ちゃんと指導してたのか?」

「せとみ様、見くびらないでくださる? いくらせとみ様直々に頼まれたことではなく、残念ながら兄上からの要望でしたけども、わたくし、頼まれたことを疎かにするような不義理はいたしませんのよ」

「……えーと。ちょっと簡潔にものを言ってくれ」

「ふふっ。こんなに落ち着いてせとみ様とお話ができるなんて。嬉しくて脳みそも舌もフル回転ですわ」

「……」

 つまり浮かれていつもよりも饒舌、と言いたいのだろうか。
 いつも決して無口ではないのに、いつも以上に口が回るということは、まともな話し合いになるのだろうか、とうんざりする。

「お花を放棄したのは、あの子のほうですわよ。お花を活けてたら集中できないとかで、座禅のようにひたすら目を瞑ってじっとしてたんですの。ところが! しばらくすると、いびきが聞こえてくるではあるませんか! 毎日ですのよ! 反省しているのかしら」

 珍しく、話が脱線することなく由梨花のほうから話題を戻す。
 おや、意外だ、と思いつつ、せとみは憤慨する由梨花を見た。

「まぁ素人は考えないと生け花はできないだろうけどなぁ」

「座禅のほうがよろしいのではなくて、と言ったのはわたくしですけどね、居眠りしろとは言ってませんの。全く何をしに来ているのかしら」

 ぶつぶつ言いながら、由梨花が、すらっと部室の戸を引き開けた。

「さ、お入りになって」

 いそいそと由梨花に促され、せとみは広い和室に足を踏み入れた。

「あれ、せとみ先輩?」

 中にぽつんと座っていた萌実が、せとみを見て驚いた顔をする。

「何、その恰好」

 ジャージ姿の萌実を見、せとみはあからさまに落胆した顔になった。
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