結構な腕前で!
「生け花なんだから、制服のままでもいいじゃん」

「制服は、じゃんじゃん洗えないじゃないですか」

「そんな汚れないだろ?」

「汚れはしないですけど、花粉がついたら一大事です」

 ああ、せとかのためか、と思い当り、せとみは口を噤んだ。

「ところで何でせとみ先輩がここに?」

「せとかじゃなくて悪かったね」

 思わず嫌味が口をついて出たが、萌実は怪訝な顔をして、ちらりと周りを見回した。

「いや、せとか先輩は絶対無理でしょ。でもせとみ先輩だって、同じくらいキツイ場所でしょ?」

 幸い今由梨花は席を外している。
 さっきまでは制服だったので、ユニフォーム(友禅)に着替えに行っているのだろう。

「ああ……まぁね」

 萌実が嫌味と取らなかったことに安心し、せとみは萌実の横に腰を下ろした。

「萌実ちゃん、華道部はつまらない?」

「はい」

 光の速さで萌実が頷く。

「いやでも、茶道だって似たようなものだろ? 楽しいか?」

 苦笑いしながら言うと、萌実はぽりぽりと頬を掻きながら、少し首を傾げた。
 萌実の場合は、茶道は別に楽しくなくてもいいのだ。

 いや、茶道自体は、と言うべきか。
 せとかがいれば楽しいのである。

「この子は根暗部長がいればいいんですから」

 いきなり、しぱーんと廊下に面した襖が開き、艶やかな友禅をまとった由梨花が姿を現した。

「ちょ、ちょっと先輩っ」

 わたわたと萌実が慌てる。
 それを由梨花は冷めた目で見降ろした。

「何を焦ってますの。まぁせとみ様でなくあっちに惹かれてしまったのを恥じる気持ちはわかりますけども」

「そこはわかってくれなくていいですっ! それよりそんなことを当たり前のように公言しないでくださいよ!」

「萌実ちゃん。あんまりそこ、鋭く突っ込まないで。微妙に傷付くから」

「ああっ! すみませんっ」

 由梨花に噛みつき、せとみに誤り、萌実は一人わたわたと忙しい。
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