結構な腕前で!
「何があったわけでもないがな……」

 少し憮然と言い、せとみは部屋の中へ視線を投げた。
 広い座敷には、綺麗に活けられた花が並べられている。

「萌実ちゃんが活けた花はあるの?」

 聞いてみると、萌実はへら、と笑いながら、ふるふると首を振った。
 ということは、全て由梨花の作品だ。
 さすがに綺麗である。

「魔の出る頻度は、どんなもんだ?」

 うっかり由梨花の腕を褒めそうになり、せとみは話題を変えた。

「今は通常運転ですわよ。その子が寝てても、わたくし一人で対応できる程度」

「す、すみません」

 萌実はひらすら小さくなる。
 それにしても、由梨花が魔を退治しているのにも気付かないとは。

 居眠りとはいっても、横になって本格的に寝ているわけではないのだ。
 萌実は一応瞑想しているつもりなので、座って目を閉じていただけ。
 目覚めたときに多少身体が傾いていることはあるが、そんな熟睡していたつもりはない。

 なのに気付かないのは、おかしくないか?

「ここの魔って、普通はそんなに大人しいのか?」

 せとみも同じことを思ったらしく、訝しげに言う。
 萌実が起きないのも妙だが、そんなに大人しい魔を相手にしてきているのであれば、由梨花の凶暴さも割に合わない気がするのだ。

「大人しくはないですわよ。襲い掛かってきますし」

「でも萌実ちゃんは、それでも起きないんだな」

「す、すみません」

 またも萌実は小さくなる。

「いや、おかしくないか? どたばたするほどではないにしてもさ、襲い掛かってくる魔を抑え込んで、壺に移す。その一連の作業を、寝てる人間を起こさないようにするなんて無理がある。あんたは着物だし、どうしたって衣擦れの音はするだろ」
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