結構な腕前で!
「せとかだって苗字だろーが。どうでもいいじゃねーか、そんなこと」

 鬱陶しそうに言い、せとみは早々に由梨花の話を打ち切った。

「そんなことより、俺が気になるのは、萌実ちゃんの、その睡眠だ」

「す、すみません」

 慌てて萌実が、また頭を下げた。
 よほど心証を害したようだ、と思ったが、どうやらそういう意味ではないようだ。
 いやいや、とせとみは手を振った。

「つまらないことで眠気を感じるのはいいんだよ。そこは俺もよくわかる。そうじゃなくて、居眠り中、全く記憶がないところとか、傍で真行寺が暴れても気付かないってことだよ」

 さっきまで不満そうだった由梨花の顔が、ぱ、と明るくなった。
 せとみが由梨花を名前で呼んだからだと思うが、苗字でもそんなに嬉しいのか。

 というか、『暴れる』という表現はスルーか。
 いいのか。
 きらきらと目を輝かせる由梨花を、萌実は温い目で見た。

「大体、さっきの魔だってそう小さくないし、聞いた通り襲い掛かってきたじゃないか。気配はまだわからなくても、現れたらわかるだろ? 自分の外のことが、完全にシャットアウトされてる感じじゃないか」

「あ、そうですね。まさに、そんな感じ。でも先輩、そういう風に言われると、ちょっと怖いんですけど」

「怖いかどうかは微妙なところだけどね。とりあえず、起こされたら起きるんだし。でもちょっと気になるな。傍から見たら無防備な状態のはずなのに、魔に襲われないっていうのも」

「それはわたくしが即座に退治するからですわよっ」

 ずいっと由梨花が鼻息荒く身を乗り出す。

「うん、まぁそれもあるだろうけど」

 うーむ、と考えるせとみは、由梨花のことは完全スルーだ。
 が、由梨花の表情を見る限り、不満そうではない。
 こういうつれない態度が格好良いとか絶対思ってる、と、萌実は密かに由梨花を観察した。

「俺の頭ではわからん。せとかに相談してみるよ」

 由梨花の熱い視線もスルーし、せとみは部室を出て行った。
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