結構な腕前で!
「南野さんも、大分慣れてきましたね」

 くるりと柄杓を回して釜に伏せ、せとかがにこりを笑う。
 ええ、そりゃ慣れもしますわよ。

 入部届を出して一週間。
 道場解放に、毎日毎日ああいうものが部活中に現れる。
 七日も続きゃいい加減慣れるっての。

 そう思うのだが、萌実の他に新入生が入部してくる気配はない。

「先輩。今年の新人は、私だけですか?」

「そうでしょうね」

「そんな少なくていいんですか?」

「入ってくれただけでも儲けものです」

「せとか先輩たちの上にはいたんですか?」

「ないですねぇ。僕たちが作りましたから」

 え、と萌実はせとかを見た。
 建物が新しいのは、去年建ったばかりだからか。
 が、せとかは萌実の心を読んだかのように、いえいえ、と軽く手を振った。

「それもあるかもですが、ほら、修繕が頻繁ですしね。壁とか、結構なサイクルで新しくなってるんです」

 ちょい、と先程の畳の一点を指す。
 そこは少し焦げたようになっていた。
 ちなみにさっきせとかに柄杓を食らったものがぶち当たった壁も、同様に焦げている。

「せとみが加減なく暴れるし。道場なんて、この一年で何回建て直したか」

「そういえば、せとみ先輩は……」

 今はせとかと二人きりだ。
 憧れの先輩と二人っきりという絶好のシチュエーションなわけだが、まだ萌実も行動を起こさない。

 実はまだ、己が憧れていた先輩がどちらか、自信がないのだ。
 もうちょっと中学のときに接近しておけばよかった、と後悔しきりである。
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