結構な腕前で!
 着替えを済ませて茶道部の部室に入ると、嗅ぎ慣れたお茶の香りが身体を包む。
 一か月も経っていないのに懐かしい。

「あ~、お茶の香りはいいですねぇ」

「そうでしょう。まぁ華道部と違って、毎日いろいろな香りを楽しむことはありませんが」

 にこにこと言い、せとかは膝先に、とん、と壺を置いた。

「いつもは、はるかとはるみが壺を作るんですけどね。南野さん、やってみてください」

 ずい、と壺を萌実のほうに滑らせる。
 ちら、と萌実は、横のはるみを見た。
 壺の作り方など習っていない。

「大丈夫よぉ。中に手を突っ込んで掻き回すだけ」

 はるみが軽く言う。
 そういえば、前にもせとかに言われて壺の中身を掻き混ぜたことがある。
 壺強化とか言っていたが、あれのことか。

 萌実は壺を手に取ると、片手を中に突っ込んだ。
 その瞬間、壺の中の空気が変わる。

「えーと、どれぐらい掻き混ぜればいいんですかね」

 くるくると手を回しながら萌実が聞くと、はるみが、ひょい、と横から壺を覗き込んだ。

「う~ん、多分もういいと思う。魔を入れてみないとわからないんだけど」

 きょろきょろ、と周りを見回す。
 魔を探しているのだろうが、茶室の中に不穏な空気はない。
 しゅんしゅんとお湯の沸く音だけが響く茶室は、むしろ心が洗われるようだ。

 しばらくしてから、ようやくせとかが柄杓を手に取り、茶碗に湯を入れた。
 ゆっくりと作法に則りお茶を点てる。

「……どうぞ」

 結構な時間をかけて点てたお茶が、萌実の前に置かれる。

「いただきます」

 一口飲むと、ほろ苦い味が口に広がる。
 ああ、先輩の点てたお茶を飲むのも久しぶり、としみじみ思いながら目を上げると、せとかとばっちり目が合った。
 萌実と目が合うと、せとかはにこりと笑い、次いで、きょろ、と先のはるみのように部屋の中を見回した。
< 242 / 397 >

この作品をシェア

pagetop