結構な腕前で!
「せとみ様。ささ、どうぞ。お乗りになって」

 う、と思い切り引くせとみを引っ張り、由梨花が車に乗り込もうとする。
 せとみが助けを乞う目ではるみと萌実を見た。

「ちょっと由梨花。私たちもいるのよ。乗れるの?」

 何となくせとみを乗せるとドアが閉まりそうで、はるみが二人の間に割って入る。

「あなた方はトランクですわ」

「ちょっと!」

 きぃ、と噛みつくはるみを、上体を反らせて鬱陶しそうに避けると、由梨花はちょい、と持っていた扇で車の中を指した。

「冗談ですわよ。トランクなんかに乗ってたら、痣だらけの酔いまくりですわ」

 車の中は、普通の座席ではなく、コの字型にソファがある。
 当然足元は絨毯。

「うわぁ。こんな車、ほんとにあるんだ」

「これ、靴脱がないでいいんですかね」

 はるみと萌実が中を覗き込みながら庶民の意見を述べていると、後ろから蹴りが入った。

「いいからさっさとお入りなさい。せとみ様をお待たせすることは許さないですわよ。但馬(たじま)、この小娘二人をさっさと積み込んで頂戴」

「は」

 由梨花の命を受けて、但馬と呼ばれた黒服が、蹴られて上体だけ車の中に倒れ込んでいたはるみと萌実の足を持ち、荷物よろしく中に積み込む。

「ささ、どうぞ。せとみ様」

 エスコートするように(男女が逆だが)優雅にせとみの手を取り、由梨花が車に乗り込む。
 振袖高下駄でもバランスを崩したりしない。
 いつもながらさすがである。

 先に女子二人を人質に取られているので拒否もできず、仕方なくせとみも車に乗り込んだ。
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