結構な腕前で!
「そうね。それにあんまり花粉つけて帰ったら、せとかが可哀相だしね」

「そんなことはどうでもいいんですけどね」

 はるみの言葉をずばんと斬り、由梨花は使用人を下がらせた。
 四人だけになってから、珍しく今まで静かだったせとみが、茶を飲みながら口を開いた。

「つか、えらいここ空気が綺麗だな。いくら山の中だって……」

「あ、せとみも感じた? 私は綺麗っていうか、す、と気持ちが軽くなるというか」

 周りをきょろきょろしながら言うせとみに、はるみも同調する。
 そして萌実に向き直った。

「萌実さんは? より強く、何か感じない?」

「ん……いや別に……」

 どこかぼんやりと答え、萌実は視線を落とした。
 瞼が重い。

「萌実ちゃん……」

 せとみが異常に気付き、萌実の肩に手をかけた。

「……あ、すみません」

 は、と顔を上げた萌実だが、すぐに瞼が落ちてしまう。
 ぐら、と萌実の上体が傾いだ。

「おいっ」

 慌てて抱き留めたが、今度は萌実の目は開かなかった。
 いきなり気を失ったのかと驚いたが、よくよく見ると、萌実はぐーすか眠りこけているだけだ。

「……」

 三人とも、呆気に取られてしばし萌実を眺めた。
 はるみが、ちらりと由梨花を見た。

 せとみを病的に好いている由梨花からすると、そのせとみに抱き抱えられている萌実は許せないのではないか。
 が、由梨花は顔色を変えるでもなく、呆れたように扇を振った。

「全くその子の居眠り癖は、何とかならないものかしらね」

 そう言って、座布団を二つに折って、ほら、と突き出す。
 せとみが、ぐーすか眠る萌実を座布団枕に横たえた。
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