結構な腕前で!
第二十八章
 一方部屋の中では、はるみが暇を持て余していた。
 萌実をつついてみても反応なし。

 どの程度で起きるだろう、とぺしぺし叩いてみたり、げしげし蹴ってみたりしたが、やはり反応なし。
 ここまで無反応だと心配になる。
 そろ、と手の平を萌実の鼻に翳してみると、僅かな息が感じられた。

---あ、良かった。生きてる---

 ほ、と息をついたとき、庭とは反対側の部屋の隅から、もわんと煙が湧いて出た。

「空間が強い分、魔も多いってわけね」

 呟き、はるみが身構える。
 いつもはもっぱら回収作業に回っているが、はるみだって攻撃性がないわけではない。
 いつも持ち歩いている小さな扇を構え、はるみは眠りこける萌実に近付いた。

 華道部での様子から察するに、どうやら寝ていても萌実に魔は近付かないらしい。
 ということは、萌実の周りは安全圏なのでは? と思ったのだが、何故か湧いた魔は一直線にこちらに向かってきた。

「げ! 何でっ?」

 攻撃性がないわけではないとはいえ、せとみのように得意分野ではない。
 それに普段一人でこのように大きな魔を退治することなどないのだ。

---あーもぅ! はるかの奴、だから土門に惹かれたってこと? 最近ずっとべったりなのも、私たちとつるまなくても大丈夫だからだったわけねっ---

 きーっと不満を爆発させ、はるみはその怒りを扇に込めて思い切り振りかぶった。

「ちぇいっ!」

 気合いと共に振り下ろした扇は、空を切った。
 魔が、近付くにつれてスピードを上げたので、目測を誤ったらしい。
 が、魔ははるみを通り越して、萌実に突っ込んでいく。

 はるみは青くなった。
 意識はなくても魔が避けると思っていたのに、でかい魔は避けるどころか目の前のはるみには目もくれず(目があるのかは知らないが)、無防備な萌実だけを狙っているではないか。
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