結構な腕前で!
 慌てて再度扇を振りかぶったが、それを打ち下ろす前に、魔は萌実に到達した。
 だが。
 魔は萌実に触れるぐらい近付いた途端、しゅ、と掻き消えた。

「……えっ?」

 扇を構えたまま、はるみは萌実を凝視した。
 あんなに大きい魔が、跡形もない。

「う~ん……」

 萌実の眉間に皺が寄り、ぱちりと目が開く。
 ゆっくりと上体を起こしつつ顔を上げ、はるみを見て、ぎょっとした顔をした。

 はるみは萌実に向かって扇を振りかぶったままだったのだ。
 まるで今にも萌実をぶっ叩こうとしているようである。

「ごめんなさいっ! 私、また居眠りを……」

 尻で後ずさりながら、萌実は慌てて謝った。
 今回は本格的に横になって寝入っていたため、いい加減はるみの堪忍袋の緒が切れたのだ、と思ったのだが、そのはるみは涙目の萌実をじっと見たまま固まっている。

「……あ、あの……」

 おずおず言うと、はるみは手を降ろすと同時に、ぺたりと萌実の前に膝を折った。

「萌実さん、何ともない?」

「え? ……え?」

「さっきまで何やっても起きなかったじゃない?」

「あ、えーと。何かこの家に来てから、凄い眠くて。目を閉じたら、あっという間に意識が持って行かれる感じで耐えられなくて……」

「今は?」

「今? ……そういえば、あんなに眠かったのに、今はすっきりしてます」

 一通り状況を聞き、はるみは、ふ~む、と腕組みした。
 萌実は何のことやらわからず、居心地悪そうに周りを見た。
 そこに、外に出ていた二人が帰ってくる。

「あれ萌実ちゃん、起きたんだ?」

「あら。壺でも普通に目が覚めますのね」

 何だか随分打ち解けたような。
 そんな二人をちらりと見、はるみは由梨花に向き直った。
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