結構な腕前で!
「私にそんな感知能力があったら、今頃魔をばんばん見てますよ!」

「無意識レベルなのでしょ。あなたはいるだけで周りに湧いた弱い魔を吸い取ってしまうほどの力の持ち主ですから、実際触れられるほど近くにいるクラスメイトなどは、もしそういう魔を付けていても、自然に祓われてしまいます。でもあ奴は、中学時代はあなたの傍にはいなかった。喋ったこともなかったのでは? 遠くだから、奴の魔は祓われないまま。だからあなたは奴が気になってたんですわよ」

 立て板に水の如く、由梨花が滔々と説明する。
 魔のエキスパート(?)にそう言われると、まだまだビギナーな萌実は、そうなのかも、と思ってしまう。
 由梨花の言う通り、せとかのことを好いている、と思っていたのは魔が気になっていた故のことだったのだろうか。

「でないと、せとみ様を差し置いて、あっちに転ぶわけがないのですわっ」

「え、もしかして私がせとみ先輩でなくせとか先輩のほうに惹かれてるのが信じられないだけですか?」

「当たり前でしょう。何度聞いても納得できません。比べるのもおこがましいですけど、奴のどこが、せとみ様に勝っているというの? 思いつく限りの項目を上げてみても、わたくしには奴が勝っているところなど、ミジンコの目ほどもありませんのに!」

 はて、ミジンコに目などあっただろうか。

「なのにここに、ミジンコの目以下の部分を見出した娘がいる。そんなもの、奴についた魔を見ている他に、何があるというのです。奴本人にはそんな部分があるわけないのですから、その周りの魔を見ていた、ということになるでしょう?」

「あのぅ……。人の好みは人それぞれでしてね……。大体皆が皆せとみ先輩のほうがいいってなったら、真行寺先輩だって困るでしょう? ライバルだらけじゃないですか」

「ライバル? あなた、その辺の女子とわたくしを同列に扱わないでくださるっ?」

 ば、と扇を広げて口元を隠し、ふんぞり返って上から見下ろす。
 条件反射で、『すみませんでした』と平伏しそうな威圧感だ。

「このわたくしが、その辺の女子よりも劣るわけがないでしょう!」

「いやでも、せとみ先輩にも好みってものがありましてね。もしかしたら、私のような蓼食う虫も何とやら、かもしれませんよ」

「好きこのんで蓼を食うのは、あなたぐらいです」

 ぴしゃりと萌実の言葉はぶった切られる。
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