結構な腕前で!
 立ち上がるはるみに続いて、萌実も庭に降りた。
 始末されるかもしれない、とか恐ろしいことを言われると、一人になるのは不安だ。
 先を歩いていた由梨花が、不意に振り向いた。

「萌実さん。こちらにいらっしゃい」

 呼び方ははるみと同じなのに、何だろう、この威圧感は。
 断れない空気を感じつつ、萌実はそろそろと由梨花に近付いた。

「……何か光景はグロいのに、空気は綺麗」

 ぼそ、と萌実が呟く。

「こんなところで和むのも、どうかと思うんですけども」

 目の前には、わっさわっさと生い茂る食虫植物。
 これには花が咲いているわけでもないので、見目だけで癒されるはずはない。
 だが何故か萌実は、やたらと気分が良くなった。

「相性がいいのでしょうね。あなたと共鳴するぐらいなのだし」

 由梨花が、食虫植物の上で手を組んでから茎に触れた。
 ぱちん、ぱちんと鋏でいくつか切っていく。

「……大人しいな。お前にゃ食い付かないのか?」

 後ろから覗き込んでいたせとみが、葉を閉じてだんまりしている食虫植物を見て言う。
 人は襲わないということだろうか?

「何だ。じゃああのとき、つついてみても大丈夫だったんですね」

 なぁんだ、と萌実が安心するが、由梨花は首を傾げた。

「それはどうかしら。この子たちは魔が好物ではありますけども、それは一回噛んでみないとわからないようですし」

「え、だって今、先輩思いっきり持ってるじゃないですか」

「食い付かれないお祈りがあるんですの。まぁうちの血縁であれば、多少力もありますから、食い付かれたところでそう大事にはならないとは思いますけど」

 そう言って、由梨花はいきなり、持っていた食虫植物を、ばさ、と萌実に渡した。
 当然萌実はお祈りなるものなど知らないので、何の対策もしていない。

「ぎゃーーーーっ!!」

 叫んで飛び退る。
 足元に、ばらばらと食虫植物が落ちた。
 だが。

「……あ、あれ?」

 足元の葉は、全て閉じている。
 萌実に食い付いているものはないようだ。
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