結構な腕前で!
「やっぱりね。あなたはこの子たちのボスみたいなものですもの。何もしなくても大丈夫と思ってましたわ」

「それならそうと、先に言ってくださいよ! とりあえず試すみたいなこと、やめてください!」

「目で見ないとわからないでしょう」

 やっぱりこの人はドSだ、と抗議する萌実は、とりあえずその場から少し移動した。
 どうやら自分は食い付かれないらしいとはいえ、そういうものがいつまでも足元にあるのは恐ろしい。

「これって一体、どういうものなんだ」

 言いつつせとみが屈んで、食虫植物に手を伸ばす。

「あ! いけませんわっ!」

 いきなり由梨花が、ばっとせとみの手を握って食虫植物から守る。

「万が一食い付かれたらどうなさるの。手を怪我したら、お茶も点てられませんでしょ」

「いやでも、俺たちは大丈夫なんだろ?」

「わかりませんわっ! わたくしも、何もなしで大丈夫かはわからないですし」

 ノーガードの萌実にはいきなり投げつけたくせに、何だこの違いは。
 しかもせとみは男だ。
 少々傷がついてもいいではないか、と萌実はぶつぶつ小声で文句を垂れる。

「お祈りというのも一種の術ですから、誰にでもすぐに使えるものではないかもしれませんし。ここはわたくしに任せて」

 あくまでせとみを庇いながら、由梨花が散らばった食虫植物を拾い上げた。

「でもこれを茶道部にも活けるといっても、今日は休日ですし。週明けに持って行きますわ」

「そうねぇ……。試してみる価値はあるかもね。ところでそれ、花は咲かないの?」

 はるみが、しげしげと由梨花の手の中の食虫植物を見る。
 見たところ、花らしきものはない。
 大きなトゲトゲの二枚葉がたくさんあるだけだ。

「残念だけど、花は咲きませんのよねぇ」

 ほぅ、と由梨花がため息をつく。
 華道家として花がないのが残念なのか、はたまたこれを茶道部に持ち込んでせとかを苦しめられないのが残念なのか。

「それじゃ、月曜日にお持ちしますわ」

「わざわざ悪いわね。じゃあせとみ、月曜は由梨花の分のお茶菓子もお願いね」

 何の気なしに、ぽん、と背を叩き、はるみはせとみに、にっと笑いかけた。
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