結構な腕前で!
「お邪魔しましてよ!」

 かつん! と高下駄を鳴らして部室に踏み込んできたのは由梨花だ。
 いつもながら、艶やかな振袖姿。
 この人、これで山を登ってきたんだよな、と萌実はしげしげと目の前に立ちはだかる振袖高下駄の由梨花を見上げた。

「……せとみから事情は聞きましたけどね」

 奥からせとかの声がする。
 は、と萌実は顔を上げた。
 折角戻ってきたというのに、いまだにせとかのご尊顔を拝んでないなんて、何たる失態、と土門を押しのけて中に転がり込む。

 が、そんな萌実よりも早く、由梨花の後ろから黒い影が伸びたかと思うと、それが土門をころりと転がした。

「むむっ?」

 何が起こったのかわからないまま一回転した土門だが、そこは柔道有段者。
 鮮やかに受け身を取って身構える。

「但馬。あまり手荒な真似はいけませんよ」

「は」

 あ、そうそう、確か車運転してた人だ、と萌実は由梨花の傍に跪く男を見た。
 どうやら但馬は、運転手というわけではないらしい。
 庶民は言葉しか知らない『執事』というものだろうか。

 出鼻をくじかれ出遅れた萌実を悠々すり抜け、由梨花は部室内に入った。
 せとかが、さりげなく袖で鼻を口を覆う。
 そういえば、いつも部活中は外している眼鏡もしている。

「その、まるでわたくしが臭いかのような態度、やめてくださる?」

 茶室に入ったところで仁王立ちし、由梨花が手を腰に当ててせとかを見下ろす。

「失礼しました。決してあなたが臭いのではなく、僕の身体のせいなのでお気になさらず。でも近付かないでくださいね」

 相変わらず袖で顔の下半分を覆い、眼鏡の向こうからにこりと微笑む。
 態度は物腰柔らかだが、言葉は直球だ。
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