結構な腕前で!
「このわたくしが、自らこんな山奥まで足を運んだというのに、全くあなたという人は相変わらず失礼千万。せとみ様の頼みでなければ、あなたなどさっさとあの子たちの餌にしてしまうところですわ」

 び、と由梨花が扇で示した先に、但馬がさっと新聞紙にくるまれた食虫植物を差し出す。
 一応その葉っぱは、全て閉じた状態で、糸で括ってある。

「あ、それが例の食虫植物ですか」

 せとかが、首を伸ばして但馬の手元を見る。

「それ、切ってしまっても大丈夫なんですか?」

 せとかの言葉に、初めて萌実は、あ、と気付いた。
 そういえば、摘んでしまえば花も枯れる。
 この食虫植物は切ってしまっても大丈夫なのだろうか。

「活けた花器が、そのまま壺になってましたよね? まさかあの壺に生えてたわけではないでしょうし」

「馬鹿仰い。壺に直接生えるわけないでしょう」

 由梨花の後ろから茶室に入りながら言った萌実をばっさり切り、由梨花はぐるりと茶室の中を見回した。

「お茶室なのに、お花の一輪もありませんのね」

「ここは生け花厳禁ですので」

 鼻と口を覆ったせとかが、柄杓で湯を汲みながら、しれっと言う。
 折角茶道部に帰ってきたのに、萌実的にはせとかのお顔が半分しか見えないという残念な事態だ。

「まぁでも今回は特別処置です。見たところ、それには花粉はついてないようですし」

「だったらその鬱陶しい手をどけなさい」

「それに花粉がなくても、あなたについてるかもしれないんですよ」

「失礼ですわよっ! そんなもの、ついてるわけないでしょう!」

「ご自分ではわからないでしょう。僕にとっては、あなた自身が殺人兵器です」

 きいぃっといきり立つ由梨花をそのままに、せとかは、つい、と視線を萌実に移した。

「おや南野さん、おかえりなさい。花粉まみれにはならなかったですか?」

「あ。はぁ」

「それは何より。着替えてらっしゃい」

 せとかに言われ、萌実はとりあえずユニフォーム(袴)に着替えに行った。
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