結構な腕前で!
「……わ、悪かったわ。ごめんなさい」

 由梨花の言うことはもっともなのだが、それをドヤ顔で肯定する但馬にむかつく。
 不満そうに口を尖らせながらも、はるかは小さく謝った。

「あなたは昔から、何か気になることがあったら、ふらふらとそちらにばかり気が行く傾向があります。普通の人ならいいのかもしれませんけどね、僕らはそうはいかない使命を負っているのですよ。そこのところの自覚を、もうちょっとしっかり持って頂きたい。そのための茶道でもあるのですから……」

 くどくどと姑のように叱るせとかを横目に見つつ、はるみは萌実にもケーキの皿を渡した。

「全く、引くわよねぇ。まぁせとかの言う通り、はるかは昔から注意力散漫でね。都度せとかにぐちぐち叱られてきたの。でもいまだに直らないのよね」

「初めに落ちた雷も怖かったですけど、その後のいびりも辛いですね」

「あんなせとか、冷めちゃった?」

 含み笑いしつつ言うはるみに、萌実はふるふると首を振った。

「いえ、ちょっとしつこいですけど、でも壺がいかに大事かってのは、何となくわかりますから。それを疎かにしちゃったら、真行寺先輩の言う通り大事になるかもしれないし。うん、先輩のお怒りも、ごもっともかな、と」

「そういうことです」

 萌実が言った途端、せとかがいきなり声を張って、説教を打ち切った。

「南野さんに免じて、ここまでで許してあげます」

「え、な、何で萌実さんのお陰?」

 小さくなっていたはるかが、驚いて顔を上げる。
 せとかは開いた扇をぱちん、と音を立てて閉じると、身体を釜のほうに向けた。

「南野さんが茶道部に入ってくれたお陰で、あなたのミスもカバーできたわけです。あなたが色恋にかまけて部活をさぼれたのも、南野さんがいてくれればこそのことですよ。……これ以上叱り続けて、僕も南野さんにしつこい男だと思われたくありませんのでね」

 最後はやはりぼそぼそ言い、せとかは柄杓を釜に突っ込んだ。
 その様子を、じ、と見ていたせとみは、同じように、自分をじ、と見る由梨花に気付いた。
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