結構な腕前で!
「え~……。ガッツがあるんだねぇ。うちに来て欲しいところだけど」

 意外な言葉に、萌実もきょとんとする。
 茶道部というのは座ってお茶を点てるだけではないのだろうか。
 それに何のガッツがいるというのか。

 あ、もしかして正座のことかな、と思って、萌実はちょっと納得した。
 なるほど、この巨漢に正座は辛かろう。

「見学のときは、わかりやすいようにするからね。小道場を借りてたんじゃない?」

 そう言って、巨漢はちょい、と斜向いを指した。
 そこには小さな畳の道場が二つほど並んでいる。
 普段は授業での柔道などに使われるそうだ。

「茶道部は危険だから、離れになってるんだよ。まぁ離れだけに、造りは立派だけど。ほら、あそこの、裏山の中腹」

 巨漢と共に体育館の棟を出、指差されたところに唖然とする。
 随分遠い。

「この学校、マンモス校だからね。ただでさえ敷地広いし、あそこまで行くのは大変だろうけど」

 でもその分、どの部活も設備は立派なんだよ~、と胸を張る。
 確かにこの学校、敷地は馬鹿みたいに広い。
 端から端までは見えないほどで、さらに山もある。

 山岳部とかロッククライミング部とかもあるらしい。
 そういうのも、本格的にできるんだそうだ。

「けど茶道部なんだから、あんな山の中じゃなくてもいいのに……」

 呆れて言うと、巨漢は、怪訝な顔をした。

「茶道部だからこそだよ。あんな部がキャンパス内にあったら、校舎なんて何度建て替えないといけないか」

「はい?」

「きみも見かけによらず、なんだね。まぁ当たり前か。あそこは皆そうだもんな~」

 いや、ほんとにその資質の欠片も欲しい、と何か感心しながらうんうん頷いている巨漢は、最後にぽんと萌実の肩を叩き、頑張ってね、と言って部室に戻って行った。
 何が何だかわからないが、まぁいい人だったのだろう。

 気を取り直し、萌実は愛しの先輩のいる(であろう)茶道部の部室(のある山)へと足を向けた。
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