結構な腕前で!
 危険も何も、悪くしたら気を失ったまま向こうの世界に行ってしまうかもしれない。

「道場の罠の強化版を作る?」

「あれはあれで精一杯よ。据え置き型の気って難しいのよ。気の元もないのに」

 はるかとはるみが、一般人にはさっぱりな会話をする。
 つまり、魔をおびき寄せるという点では道場の罠と一緒だが、道場の罠は周りの空気を綺麗にした上で、魔の好む気をその場に残す。

 気は人の作り出すものなので、人がいないと徐々に薄れる。
 気の元である人がいないと、餌はそのうち消えてしまうのだ。
 残り香的なものなので、元々そう強いものでもない。

「それよりも、こちらから出向けばいいではないですか」

 ぱし、とせとかが扇を鳴らした。

「折角の新入部員を、みすみす魔に持って行かれるのは気に入りません。幸い南野さんは、魔の気配を察知することができるように……なりつつあります。そうですね?」

 せとかに言われ、萌実は思わずこくこくと頷いた。
 察知できるといっても、あんな直前だと意味ないだろう。
 だがこのまま餌になるのも嫌だ。

「元々南野さんは、魔の気配を事前に察知できるようになるために、華道部へ行ってたんですから。考えてみれば、今回に繋がるいい修行でしたね」

「といってもその子、うちで何をしていたわけでもありませんでしたわよ」

「傍目にはそうかもですね。ていうか真行寺さんは人の内部を視るのが得意なくせに、南野さんの内部が壺状態になっているのにも気付かなかったんですか」

「壺状態なんて力ではありませんわ! むしろ何事もない完全『無』の状態なのですから、何も感じないのが当たり前なのです」

「ほぉ。無の状態がわからないなど、あなたの力も大したことないですね。強すぎる力も防御本能で視えないし。真に強い能力者を見抜けなければ意味ないのでは?」

 うぐぐ、と珍しく由梨花が黙る。
 こういうとき、但馬は動かない。

 あくまでも由梨花の命あっての行動のようだ。
 それがここまで徹底していると、この人実はロボットなんじゃないかと疑ってしまうのだが。
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