結構な腕前で!
 もしかして、由梨花の心はせとかに向いているのではないか?
 いつもつれないせとみより、何気に己の趣味を肯定してくれたせとかのほうがいい、とでも思ったのではなかろうか。
 意外な一面を発見した瞬間に、一気に心は持って行かれるものだ。

---い、いやでも。折角せとみ先輩も、ちょっと真行寺先輩に興味を持ち始めたっぽいのに……---

 時すでに遅し、か。

---困る! いくら変人だからといっても、真行寺先輩は美人だし……---

 しかもその唯一にして最大の欠点である変人の部分が、せとかと合うというのであれば、萌実に勝ち目はない。
 だが、と今までの由梨花の行動を考えてみる。
 そもそもあんなに文句を言っていた相手のことを、そう簡単に好きになるだろうか。

---あり得ない。真行寺先輩にとってせとか先輩なんて、虫けらみたいなものだったし---

 およそ己の好きな人に向ける言葉ではない。
 だがそれほど由梨花の中のせとかの地位は低かったはずだ。
 虫けらが、神扱いだったせとみを追い抜くことなどあるのだろうか。

 普通では考えられないが、如何せん相手は変人由梨花である。
 当たり前にお付きの者がいるような、庶民には考えられない生活をしていれば浮世離れもしよう。
 萌実の感覚で考えないほうがいい。

「とりあえず南野さんは、雑念を取り払って魔に集中するようにしてください」

「え?」

 悶々としていた萌実は、いきなり皆の視線を浴びて狼狽えた。
 何か大事な話の途中だったっけ? と焦る萌実の手をぎゅっと握り、せとかが、ぐいっと顔を近づける。

「魔の餌にはなりたくないでしょう? 僕だって南野さんをそんな目に遭わせたくはないのですよ? だから、できるだけ早く魔の気配を察知できるようになってください。力を合わせて、魔を根絶してしまいましょう。僕と南野さんの力であれば、できますよ」

 きらきらと言う。
 それだけで、萌実は先の不安など、綺麗さっぱり忘れてしまうのだった。
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