結構な腕前で!
「いやいや、そうでなくて。……いや、どうなんだろう? 魔の気配と霊の気配は、ここでは同類項なんだろうか」

 せとかがぶちぶち言いながら考え込む。

「とにかく、魔の気配を感じませんか、ということですよ」

「え~? ……だってまだ気配といっても、直前に気付けるようになったばっかりですよ。ほんとの直前だから、気配を探るなんてことできません」

 きょろきょろと辺りを見回してみても、特に何も感じない。
 言ってしまえば、よく聞く緑の癒し効果というものさえ感じられないほどだ。

「魔、と思ってるから余計かもしれませんね。別に魔に拘ることはないですよ。何となく気になる、というだけでも、南野さんがそう感じることに意味があるのですから」

 褒められたわけでもないのだろうが、何となく萌実は嬉しくなった。
 せとかが萌実の力を認めている。
 萌実が自分で気付かない能力まで、ある、と信じてくれているのだ。

---これは先輩のためにも頑張らねば!---

 単純な萌実は鼻息荒く、再び周りを見回した。
 しかしこういうことは、気になるということを意識すればするほど、本当に気になるものは見えなくなる。
 『気になる』という感覚を意識しすぎて、どれもこれも気になってしまう。

「そもそも『気になる』って、どういう風に感じるんですっけ」

「それは人それぞれでしょうねぇ」

 間抜けな会話をし、顔を見合わせる。

「はは。そうですね、確かに漠然と『気になるものを見つけろ』とか言われても、すぐに『これ』とはいかないですよね」

 笑いながら、せとかは顔を上げた。
 少し先に、ちょっとだけ拓けたところがある。

「あそこが山頂ですね」

 そう言って、萌実の手を引いた。
 うお、と萌実の心臓が高鳴る。

「上に行くほど足場が悪いですねぇ。いかに誰も登ってないかがわかる」

 萌実の手を取ったのは、足場の悪さを気にしてのことか。
 甘やかな理由でなくても、その優しさが素敵! と乙女な萌実は萌えるのだが。

 ただせとかに限っては、この行動も優しさかどうかというところに疑問がある。
 もしかしたら単に自分が迷いそうとか、悪い足場から転がり落ちないための命綱なだけかもしれない。
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