結構な腕前で!
「あの、すみません」

 曖昧なことで皆の思考を邪魔してしまったようで、萌実は小さく謝った。
 が、せとみが、ぶんぶんと手を振る。

「いや、何でも言ってくれたほうがいい。何が手掛かりになるかわからないしね。しかし、そんなところがあったのか」

「確かにあそこは、ちょっと異様なところでしたね。いきなり岩が出現しましたし」

「山の上に行くほど岩が多いって、面白い地形よね。しかもそんな大きな岩が、ど~んとあるなんて。どっかの噴火で飛んできたのかしら」

「あの地形は、もっと強力な魔が、餌を得るために作ったのかもしれません。あんなところ、追われてるときに入り込むでしょうか。追い詰められたら終わりなのに」

 せとかが、図書室で借りた郷土資料を広げながら言う。
 またあの絵を見せられるのかと、萌実はちょっと構えた。
 が、せとかが手を止めたのは、単なる山の地図だった。

「こっちに行けば、多分反対側に降りられるんじゃないですかね。逃げるにしても、上に行くのは不自然です。逃げているうちに岩が増えてくるのにも気付くでしょうし、木々がなくなれば隠れることもできなくなります。そんなところに、何故わざわざ逃げ込む必要があるのでしょう」

「焦ってるから、周りなんか見えてないんじゃないか?」

「そうでしょうか? 追われてるなら、まず身を隠そうとするもんじゃないですか?」

「そうね。私だったら、まず隠れるわ」

「私も」

 はるかとはるみが顔を合わせて頷く。

「そうですなぁ。攻撃するにしても、相手の隙を見つけようと思えば、一旦身を隠して相手を観察するでしょうし。やり過ごせるならやり過ごしたほうがいいですしなぁ」

 土門も太い腕を組み、少し後ろで頷いている。

「つまり、上に行かざるを得ない状況だったってことですね」

 ぽん、と音を立てて、せとかが本を閉じた。
 そして、丁度もわんと湧いた煙に、無慈悲に叩きつける。

「魔のほうから人を引き寄せるなど、ちょっと考えられないことでしたが。親玉がいると思えば、それも頷けます」

「そうだな。それぐらい厄介な奴じゃないと、わざわざ生贄まで用意して退治しようなんて思わないだろうし。こいつら程度じゃ、鬱陶しいけど簡単に打ち払えるしな」

 ちょい、と先程せとかが潰した煙の塊を指して、せとみが言った。
 はるみがそれを、懐紙で壺に掃き込む。

「その罠が、山頂ってこと?」

「ではないでしょうか。山頂、というより、その下……ではないかと思うんですけど」

 あの吸い込まれそうな断崖絶壁の下に、魔の親玉が口を開けているのか。
 ぞく、と萌実は寒気を感じた。

「真行寺さんに協力して貰いますか」

 ふぅ、と息をつき、せとかはせとみのほうを見た。
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