結構な腕前で!
「南野さんは不器用なんですね」

 せとかが、ひょい、とお好み焼きを掬い、ぱさ、と卵の上に乗せる。
 そしてすぐに、それをひっくり返した。

 いい感じに火の通った卵が、お好み焼きと一体になって姿を現す。
 おお、と感動するも、さっき何気にディスられたことで素直に喜べない。

「まぁ上手くできないほうが、手伝う口実にはなりますけども」

 若干どんよりしつつ、コテをお好み焼きに突き刺した萌実の耳に、ぼそ、と言ったせとかの呟きが聞こえた。
 再び、ん? どういうこと? と視線を上げると、せとかは自分の餅めんたいチーズ玉をコテに掬い、ずい、と差し出した。

「美味しそうだと言ってましたので」

 注文時に餅めんたいチーズと迷っていたので、少しくれるらしい。
 が、せとかのコテは萌実の顔の前。
 いわゆる『あ~ん』の状態だ。

 これはこれで美味しい状況なのかもしれないが、せとかの場合、本当に『あ~ん』のためなのかわからない。
 何せ目の前のコテの上の量が多い。
 一口サイズではないのだ。

「いやあの、せんぱ……」

 はにかみながら萌実が口を開けた瞬間、コテが口に押し込まれた。

「んぐぐっ!」

「あれ、入りませんか」

 さも意外そうに言う。
 コテいっぱいのお好み焼きなんぞ、入るわけないだろーが! と思いつつ、萌実は目を白黒させて口の中のお好み焼きを必死で咀嚼した。

 せとかにとっては、これが一口サイズだったのか。
 そんな大口を開けているイメージはなかったが。
 行為自体は嬉しいはずなのに、さっぱり喜べない。

「せとか。自分は食に関しては規格外だってこと、自覚して頂戴」

 萌実に水を差し出しながら、はるみが呆れたように口を挟んだ。
 しかし次の瞬間には、にやりと口角を上げる。

「それに、いくら気に入ってるからって、いきなり直で食べさせるのはどうかしらね」

 ん? と萌実は水を飲みながら、はるみを見た。
 何だか今日は、ちょいちょい気になることを呟いているような。

 視線をせとかに滑らせた萌実は、ちょっと目を見開いた。
 せとかの顔が赤い。
 もしやこれは、照れ、というやつでは?

 あまりの量に甘さもくそもなかったが、先の行為はまるで恋人のそれではないか。
 何とも思ってない人間に対して、『あ~ん』などするか?
 ぐるぐると考えているうちに、萌実まで赤くなる。
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