結構な腕前で!
「あ、えっと。せとか先輩もこっち、どうぞ。美味しいですよ」

 誤魔化すように、ざく、と鶏つくね玉にコテを刺した萌実を、せとかは制した。

「いえ、さっきも言ったでしょう。南野さんもきちんと食べないと。明日は南野さんが一番消耗するかもしれませんよ」

「やっぱりそうなんですか」

 歴代神の子が死ぬほどの儀式だ。
 当事者としては、やはり不安。
 さっきまでの少し浮かれた気分が一気に冷め、萌実は上目遣いにせとかを見た。

「やはり南野さんあっての儀式だと思うので。穴の周りのびーちゃんが、南野さんにどれほど影響するかもわかりませんしね……」

 ひく、と萌実が引き攣る。
 そういえば穴の周りにあの植物を植えたのだったら、結構な量のびーちゃんがいるということだ。
 魔の巣窟たるそんなところで、大量のびーちゃんと対峙すれば、萌実は壺まっしぐらなのではないか?

「な、何とか寝ないようにしないと。寝たら私、終わりですよね?」

 青い顔で言うと、はるみも心配そうな顔をせとかに向けた。

「そうね。萌実さん、由梨花のところでは自分の意思関係なく意識を持って行かれた感じだったし。穴の近くなんかでそんなことになったら危ないんじゃないの? 本当に大丈夫?」

「大丈夫です」

 かた、とコテを置き、きっぱりとせとかが言った。
 萌実の不安を払拭するに十分な、強い瞳。

「南野さんの意識が持って行かれても、魔が入り込む前に僕の力でいっぱいにします。僕の力は魔を滅するので、南野さんの中に魔は入れなくなるはずです」

「あ、なるほど。それはそうかもね」

「何度も言うようですが、元々神の子一人で何とかできることなんです。それを二人でやるのですから、ダメージも軽減されるはず。死ぬことはありません」

 断言され、萌実は少し安心した。
 今まで生き残った神の子はいないのだし、せとかの言うことは憶測だ。
 だが姿勢を正した強い瞳に、得も言われぬ頼り甲斐を感じる。

「大丈夫です。南野さんは、僕が守ってあげますよ」

 駄目押しのセリフに、根強く残っていた不安の残骸が、さぁっと吹き飛ばされる。
 せとみのこのセリフは何の効果もないが、せとかとなると100%信じられるから凄い。

「わかりました! 頑張ります!」

 がた! と立ち上がり、拳を天に突き上げて(実際はお好み焼き屋の天井だが)、萌実は高らかに宣言した。
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