結構な腕前で!
「……ふぅ」

 小さなため息と共に、肩に重みを感じた。
 ん、と少し首を動かした萌実は、瞬間的にその場から飛び退くように地を蹴った。

 背後からせとかが、萌実の肩に顔を埋めていたのだ。
 忘れていたが、ただでさえ後ろから抱かれていた状態だった。

「せせせ、先輩っ!!」

 もたれていた萌実がいきなり飛び退いたお蔭で、せとかは、ごて、とその場に倒れ込んだ。

「……あいた」

 倒れたときに打ったのか、せとかが額を押さえながら顔を上げる。

「ああっ! す、すみませんっ」

 慌てるが、萌実は身体が動かない。
 先程せとかの頬が当たった首筋が熱い。
 ついでに握られていた手も熱い。
 真っ赤になって、萌実はふるふると震えた。

「ああ、すみません」

 一方のせとかは、元のぼーっとした表情で謝ると、何事もなかったかのように元の位置に座る。
 そして散らばった茶道具を元に戻し始めた。

「「せとかは、えっちなんだから~」」

 きゃらきゃらと、はるかとはるみが壺をしまいながら笑った。
 それに、萌実は何か、いたたまれなくなる。

「あ、ごめんごめん」

「からかっちゃった~」

「「実は、そういうんじゃないから安心して~」」

「え?」

 赤い顔に疑問符を浮かべた萌実を、はるかが座るよう促した。

「入部早々嫌われるようなことをしたのは謝ります」

 前に座っていたせとかが、ぺこりと頭を下げる。

 嫌うなんてとんでもない!
 ただびっくりしただけでっと心の中では即座に否定するのだが、心の中の冷静なもう一人の萌実が、それを口に出すのを押し止める。

 もしかしたら、せとかは誰にでもああいうことをするのかもしれない。
 新入部員がいないのも、セクハラのせいかもしれないではないか。
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