結構な腕前で!
第三十七章
 そして待ちに待った(といっても夜が明けただけだが)土曜日がやってきた。
 迎えに行く、といっても家ではなく、いつも送って貰う公園での待ち合わせだ。

 約束の時間より大分早くに、萌実は公園についた。
 あれだけ悩んだわりには、結局アンクル丈のパンツにシャツといったシンプルなものになった。

 少しどきどきしながら待っていると、向こうのほうから人影が近付いてくる。

「……?」

 近付くほどに、からんころんと音がする。

「せ、先輩……」

「あ、お待たせしましたか」

 がっつり着物姿のせとかが、にこりと笑う。
 まじか、と萌実は下駄の音を響かせているせとかを見た。

「あの、先輩。茶会の帰りとかですか?」

「いえ? 僕はいっつもこの格好ですよ。あ、やっぱりせとみに服借りてくれば良かったですかね。引きます?」

「引きはしないですけど……」

 着物で来たこと自体は別にいい。
 そこに引くことはないが、せとみに借りないと洋服がない、ということには、はっきり言うと引く。
 もしかして、せとかと付き合った場合、デートは常に着物なのだろうか。

 そんなことを考えている萌実に、せとかはにこっと笑顔を向けた。

「良かった」

---いい! 着物でも全然いい!!---

 せとかの笑顔にころりと丸め込まれる辺りがちょろい。

「では行きましょうか」

「はい!」

 からんころん、と下駄を鳴らすせとかについて、萌実も学校へと向かった。

「ところで先輩。いっつもそういう格好ってことは、普通にお出かけするときは、常に和服ってことですか?」

 例え相手が和服であろうと、学校につくまでの時間を無駄にしてはいけない。
 プライベートを知るチャンスだ。
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