結構な腕前で!
 そんなことを当たり前のように言われても納得しかねる。
 知れば知るほど変人ぷりが露わになるが、萌実の気持ちは冷めないから不思議だ。

 自分で言ったように、足場の悪い山道も、せとかは危なげなく下駄で進んでいく。
 ちゃんと登山を想定して、パンツにスニーカーで来た萌実のほうが置いて行かれがちだ。

 やがて見知った広場に出た。

「とりあえず、茶室に寄りますか」

 部室の引き戸を開けると、開いた障子の向こうにせとみたちがいた。

「お、来たな」

 せとみは普通に、Tシャツにジーンズ。
 はるみも同様。
 だがここにも場違いな人がいる。

「遅いではありませんの。しかも今からそんな無駄に体力を使ってよろしいの?」

 茶室の上座に、艶やかな振袖の太夫がいる。

「身体慣らしは大事ですよ。ああ、あなたはIDカードをお持ちでしたね」

 大回りして最も下座に座り、せとかが言う。

「カード?」

「由梨花は学校内の有力者だからね。どこでもいつでも自由に出入りできるのよ。だから今日も、正面玄関突破」

 そんなカードがあるなんて、庶民は知らなかった。
 しかも車で来たらしい。
 さすがに山の下までだが。

「あれ? 皆で来たわりに、はるか先輩と土門くんの姿がないですが」

 きょろきょろと部室の中を見回す萌実に、由梨花が吐き捨てるように言う。

「あんなデカブツを、何故わたくしの車に乗せねばなりませんの。一人で定員オーバーになりますわ。トランクでよろしければ運びますけれども」

「あいつらは大して役に立たねぇから、別にいなくてもいいしな」

 ふん、とせとみも拗ねたように言う。
 土門とはるかのラブラブっぷりが気に食わないらしい。

「ま、どの程度こっちに流れてくるかわかりませんし。ただ今日の魔はいつもより暴れるかもしれませんから、せとみが軽く固形化した魔をどんどん土門に任せるという方法が、効率がいいかもしれないですけどね」

「俺のアシストが、野郎にできるかね」

 へ、と馬鹿にしたように言うせとみに、由梨花が鋏を構えて寄り添った。

「せとみ様のアシストは、わたくしがいたしますわよ」

 ほほほ、と高笑いする。
 由梨花はアシストなどではなく、一人で十分戦えると思うのだが。
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