結構な腕前で!
 だが考えてみれば、由梨花は家柄的に魔に精通しているだけで、守りの力があるわけではない。
 びーちゃんを操れる辺り、何らかの力は働いているのだろうが。

「せとみ、真行寺さんをきちんと守りなさいよ。あとはるみも。まぁ真行寺さんは、いざとなったらびーちゃんを魔に投げつければよろしい。はるみも壺を離さないように」

「せとかも、ちゃんと萌実さんを守るのよ。もっとも危険な役回りなんだから」

 はるみに言われ、忘れていた恐怖が萌実の中で盛り上がる。
 が、そんな萌実の肩を、せとかが掴んで引き寄せた。

「もちろん。南野さんは、僕が全力で守ります」

 あー、これをどこぞのチャペルで言って欲しい~、と、湧き上がったばかりの恐怖はすき焼きの中に投入された綿飴のように、しゅるしゅると溶けていく。

「そういえば、今朝家のびーちゃんたちが、一斉に茂りましたのよ」

 ふと由梨花が思い出したように口を挟んだ。

「おそらく穴に植えたびーちゃんが、根を張って本領発揮し出したのだと思いますわ。出てくる魔を片っ端から食べてるんでしょう。びーちゃんの力が、今までにないほど強まってるかもしれませんわよ。わたくしたちにはいいことですけど、その子にはキツイかもしれません」

 ちょい、と萌実を指して言う。
 う、と萌実の顔が引き攣った。

 華道部の部室程度の量で意識を持って行かれるのに、今までにないほどの力を発揮しているびーちゃんの近くに行って大丈夫だろうか。
 一瞬で意識がなくなったらどうしよう。

「ま、駄目だとなったら、穴に放り込んでおしまいなさい」

 おほほほ、と笑う由梨花の高笑いに送り出され、萌実はよろよろと、せとかと共に再び山に入った。

「せんぱぁい。ほんとに大丈夫ですか? 私、生きて帰れます?」

 聞きたくないが、聞かずにはいられない。
 不安を隠さずに言うと、せとかが立ち止まり、手を差し出した。

「大丈夫です。僕が守ると言ったでしょう」

 ぎゅ、と萌実の手を握り、そのまま歩き出す。
 この一言だけで、安心する。

 繋いだ手から、ほのかな熱が伝わった。
 すぅっと萌実の心が澄んでいく。

「絶対に、離しませんから」

「……はい」

 せとかの力だろうか。
 手の平に熱を感じながら、萌実は例の岩場へ向かった。
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