結構な腕前で!
「明らかに空気が違いますね」

 穴のある岩場に近付くにつれ、視界が悪くなる。
 部室にいたときは晴天だったのに、今は辺り一面霧が立ち込めているのだ。

「山の天気は変わりやすいとはいえ、上と下とでこんなに違うもんなんですね」

「これは天気ではないですよ。全て魔ですね」

「えっ」

 周り全て魔ということか。
 驚き、思わず萌実は足を滑らせそうになる。

「霧なら、じとっとするでしょう? でもこれは特に何も感じない。魔は、湧いて出るときは煙です。その状態ですね」

 繋いだままの手をぐっと引かれ、支えられる。
 スニーカーの萌実が転びそうになって、下駄のせとかに支えられるとはどういうことだ。

「やっぱりちょっと異常ですね。これほど魔が充満することなど、道場でもありません」

「あ、そ、そうですね。ていうか、これ全部魔なんだったら、息して大丈夫ですかね」

 何となく口や鼻から体内に入り込みそうだ。
 そう思うだけで息苦しくなる。

「この程度なら大丈夫です。これは漂うだけの魔なので、力はほどんどないです。この程度なら、僕の守りの力でも防げますし」

「そうなんですか。そういえば、全然魔っぽくないですね。力がないと、それっぽくないんですかね」

「そうですね。ただこれは、厄介なことに視界を遮って旅人などを惑わすんですよ。昔からよくある山の怪です。お話などで聞いたことあるでしょう?」

「あ、そういえば。あれって魔だったんですか」

「僕はそうだと思ってます。この程度の力の弱い魔は、全国どこにでもおりますし」

 なるほど、と納得しながら、二人は岩場を登り続ける。
 霧ではないので辺りが湿っておらず、岩が滑ることはないが、見えない、という危険はある。
 前のときよりかなりな時間をかけて、最後の断崖の先っちょについた。
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