結構な腕前で!
「うわっ……」

 登り切った途端、萌実の視界が揺れた。
 頭の先から無理やり魂が抜かれるような感覚だ。

「南野さん!」

 せとかが叫び、繋いだ手を引いた。
 その勢いのまま、ぎゅうっと抱きしめる。
 その瞬間、半分抜けていた魂が、しぽん、と戻った。

「ひゃああ~~!! せせ、先輩~~」

 わたたた、と小さく暴れる萌実に、せとかのほうが驚いた顔になった。

「み、南野さん、大丈夫なんですか? まだ僕の力はほとんど送ってませんが」

「あ、え? えーとえーと。そういえば、さっきは意識飛びそうでしたけど、いやその、びっくりした瞬間に、何かぱっちり目が開いた、みたいな」

 真っ赤な顔で言いながら、萌実は誤魔化すように視線を断崖の下にやった。
 そこはひと際濃い乳白色の海だ。

「危ないですよ。この下には穴があって、びーちゃんがひしめいているはずです。さっき南野さんの意識が持って行かれそうになったのも、そのためでしょう。ていうか、今は何ともないんですか?」

 後ろからせとかが、萌実を支えつつ言う。

「あ、そうか。びーちゃんのせいで、危うく贄になるところだったんだ……」

 ぞ、とするが、何故か今は何ともない。
 というか、さっきはせとかに抱きしめられた驚きで、びーちゃん効果を撥ね退けたのか。
 あれだけ強烈な力を跳ね返すとは。

---恋の力は凄い---

 密かに思い、萌実は眼下の乳白色の海を見た。
 恋の力で萌実の意識が保たれたものの、これではどこに穴があるのかわからない。

「そうだ。こういうときこそ、魔の気配を察知すれば……」

 中途半端に終わったとはいえ、特訓の成果を今こそ出すべきだ、と思ったが、すぐ後ろのせとかが、軽く首を振る。

「いや、周り全て魔ですよ。気配は溢れかえってます」
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