結構な腕前で!
「何も考えるな」

 ぼそ、といつか聞いた萌実の大好きな言葉が耳に流れ込む。
 言われた言葉通り、萌実の頭からすべての考えが消え去った。

 と同時に、身体がカッと熱くなる。
 辺りの空気が変わり、穴の周りのびーちゃんが、何かを察したように、ざざざ、と葉を外側に向けた。

「粉砕っ!」

 せとかが叫んだ途端、身体中の熱が一気に手の平に集まった。
 そして灼熱の塊が、どーん! と凄い勢いで穴に飛び込んで行く。

「結!」

 続けてせとかが初めて聞く呪文(?)を発した。
 どん! とまた、手から何かが飛び出した。

 と思いきや、それは一発に留まらず、どん! どん! と続けざまに飛び出していく。
 五、六発も出ただろうか。
 飛び出したそれは、銀色の太い杭のようで、穴の入り口を囲むように、周りに突き刺さっている。

「……成功ですよ」

 は、と気付けば、周りの霧もすっかり晴れている。
 銀の杭は結界のように、穴を覆っているようだ。
 びーちゃんが、ざざざ、と結界の上にも伸びて穴の表面を覆っていった。

「やった……んですかね……」

 何が何やらわからないが、辺りの空気が澄んでいるということは、成功したということだろう。
 ほ、とした途端、肩に重みを感じた。
 ん、と見ると、せとかがもたれている。

「……うわっ! せ、先輩っ!」

 唇が首筋に触れる! と焦った瞬間、がくん、と萌実の身体が下がった。
 え、と思ったときには、萌実の足は岩場から離れている。

「……っ!」

「南野さん!」

 腕の中からすり抜けて落ちていく萌実の腕を、せとかがしっかりと握った。
 だが大きな力の放出に加え、滅多にすることのなかった最終結界の連射もあり、せとか自身の体力は限界だ。
 支えることができず、せとかの身体も萌実に引っ張られるように、空中に放り出された。
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