結構な腕前で!
「さすがに速いな。しっかし、さっきまでの霧が嘘のようだ」

「まぁあの状態では、ヘリは出せませんわね」

 視界は良好。
 そろそろ山頂、というところで、せとみは下を見た。

「ん? 何だ、あれ」

 穴があった場所に、わっさわっさと蠢くものがある。
 少し近付いてみると、生い茂るびーちゃんに埋もれて、萌実とせとかがもがいているではないか。

「せとか! 萌実ちゃん!」

 がらっとヘリのドアを開けた途端、萌実の絶叫が飛び込んでくる。

「いたたたたた! 痛いってちょっと! 私は魔じゃないって、いい加減わかれ!!」

 ぎゃーすか叫んでいる萌実は元気そうだ。
 が、せとかはぐったりしている。

「あらあら? 何を遊んでいるのかしら」

 あまり片方に重心を寄せられないため、由梨花が奥の座席から、首を伸ばして下を見る。

「萌実ちゃーん! どうしたんだ? 大丈夫か?」

「あ! せとみせんぱーい! 助けてください!」

 びーちゃんにかじかじと齧られ、半泣きで萌実が左手を伸ばす。
 右手はせとかが握っているのだ。

「自らびーちゃんと戯れようだなんて、変わった子ですこと」

 ヘリをぎりぎりまで下降させ、由梨花が縄梯子を放る。
 ヘリの風圧で、びーちゃんが萌実から少し離れた。

「今だっ」

 ぐん、と腕を伸ばして、萌実が梯子を掴む。
 そして、せとかを振り返った。

「せとか先輩! しっかり!」

 繋いだ右手を、ぐい、と引っ張る。

「せとかぁ! 何へたってるんだ! 起きやがれ!!」

 せとみが頭上から罵声を浴びせる。
 重心をずらすわけにはいかないので、手伝えないのが歯がゆい。

「先輩っ! ほら、頑張って! 先輩を担いでは上がれませんよ!」

 ぐいぐいと右手を引っ張って言うと、せとかがのろのろと顔を上げた。
 上空のヘリを見、安心したように萌実の手を掴んでいる力を緩める。
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