結構な腕前で!
「何だ? 魔か?」

 ざ、とせとみが身構える。
 だが、山から砂埃を巻き上げて現れた影を認めた途端、せとみは、ぎょ、とした顔になった。

 砂埃を上げて走ってくるのは但馬だ。
 しかも、肩に土門を担いでいる。

「……まじかよ」

 本日何度目かの言葉を吐き、せとみは唖然とその姿を見た。
 但馬はそうでかくもない。
 細身に見えるし、とても巨漢ともいえる土門を肩に担げるとも思えないのだが。
 しかもその状態で走るなど。

 但馬はそのまま広場に走り込み、すぐに速度を落とす。
 砂埃が治まってから、由梨花に歩み寄り、土門を地に転がすと共に、自分も膝をつく。

「遅いじゃありませんの。まぁきちんとデカブツを捕獲してきたから、よしとしましょう。ではヘリの中でへたってる、せとみ様の兄君を運んで頂戴。根暗部長など、わたくしはどうでもいいけど、せとみ様の兄君ですからね、丁重に運ぶのよ」

 おそらく但馬が広場に入った途端速度を落としたのは、砂埃を巻き上げたまま由梨花に近付くことなどできないからだろう。
 そういった気配りも欠かさない。

 だが由梨花からすると、そんなことは当たり前のことなので、労う素振りもないのだが。
 但馬もこういうことは当たり前なので、さっと立ち上がると、すぐにヘリへと走っていく。

「……ていうか、土門、何寝てるんだ」

 地面に転がる土門を覗き込み、せとみが言う。
 由梨花はちらりと足元に視線を落としただけで、ヘリに目をやった。

「大方そのデカブツが、但馬の要求を拒否したんではない? お節介のお人よしであれば、自分しか運べる人間がいないとなれば、意地でも行こうとするでしょう? やはり心配だったのでしょうし。まぁ根暗部長は橘はるかのイトコですしね」

 そんな下心ではなく、この土門であれば本当の親切心で現場に急ごうとしたような気もするが。

「但馬に手刀でも食らったのでしょうよ」

 そんなことを言っている間に、ヘリからせとかを抱えた但馬が出てきた。
 こちらはお姫様抱っこだ。
 抱えられているせとかは、不自然に身体を強張らせている。
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