結構な腕前で!
「では、これを二つで」

 水を運んできた店員に告げる。
 萌実は慌てて去ろうとする店員を止めた。

「い、いやいや、ちょっと待って。私は普通でいいです」

 メニューをめくろうとするが、それをせとかに取り上げられてしまう。

「駄目ですよ。いつも言ってるでしょう。そんな小食では倒れてしまいますよ」

「いやいや先輩。私は決して小食ではないです。でも大食漢でもないんです」

 自分基準で考えないで欲しい。
 せとかの食欲は普通でないと、何故誰も教えてこなかったのだ。

「でしたら、お二人で一つになさったらいかがです?」

 店員の提案(というか普通はそうするのだろう)に、え、と萌実は赤くなった。
 が。

「いや、それでは足りないです」

 ばつんと切られる。
 そして、しぶしぶメニューを広げて萌実に差し出した。

「じゃ、私は抹茶パフェで」

 無事に普通サイズのものを注文し、程なくブツが運ばれてくる。
 抹茶パフェも決して小さくはないのに、メガ盛り和風パフェと並ぶとマッチ箱程度だ。

「先輩。ほんとにそれ、完食できるんですか?」

「これぐらい、普通サイズですよ」

 いや、おかしいから、その感覚。
 萌実の心の突っ込みに気付くことなく、せとかは順調にあり得ない量のパフェを平らげていく。

「ていうか、上に乗ってるそのケーキ三つでお腹いっぱいになると思うんですけど」

「小食ですねぇ。こんなん前菜ですよ」

「そういえば、その量を苦も無く食べられる先輩を、私はヘリに引っ張り上げたんですよねぇ」

 今更ながら、自分の腕力が恐ろしい。
 とはいえ、あの時は本当に必死だったので、あのようなこともできたのだ。
 火事場の馬鹿力というやつであろう。
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