結構な腕前で!
「あ、いやそこはいいんですよ。ふーん、でも着物を苦も無く着られるっていうだけでも凄いですよ」

 何のフォローだ。
 しかし遊びに行くことがない、ということは、デートもしたことがない、ということではないか?

---馬鹿だな~、皆。先輩はこんなに格好良いのに。多少の変さだって、この格好良さで相殺されるって!---

 でれでれする萌実にちらりと視線を戻し、せとかは伝票を持って立ち上がった。

「あ、払いますよ」

「いいですよ。僕のほうが食べてますから」

 前にも思ったが、そういう問題ではない。
 だがとりあえず、萌実は素直にせとかの厚意に甘えることにした。

「そういえば、南野さんは着物は着れないんですか?」

 からんころんと下駄を鳴らしながら北条家への道を歩きつつ、せとかが言う。

「ていうか、普通はそうそう着る機会なんてないですよ。着れるも何も、着たこともないです」

「えっそういうものですか」

 心底驚いたように言うせとかに、萌実は周りを示した。

「着物の人なんて、いないでしょ?」

「まぁ……言われてみればそうですね」

 着物がデフォルトのせとかからすると、着付けができない、というのは洋服を着ることができない、という感覚と同じなのだろう。

「うちはお弟子さんたちも着物だから、それが普通だと思ってました」

「本格的なんですねぇ。今どきはテーブルと椅子での茶道ってのもあるみたいなのに」

「やむを得ない場合以外でのそういうのは、僕は認めませんが」

 なかなか厳しい。
 そういえば、単なる部活でもきちんと着替える辺り、徹底していると言っていい。

「せとか先輩は、型を大事にするんですね」

「というか、伝統を重んじるんです。元々日本的なものは好きですから」
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