結構な腕前で!
「力がなくなったから、食欲も人並みになったんですよ」

「あ、なるほど~」

 ぽん、と手を叩いて、せとみがいそいそとラップを用意した。
 それをせとかの羊羹の残りに被せる。

「じゃあこれはストック、と。しばらく羊羹食い放題だな」

 嬉しそうに言い、皆の残りと共に冷蔵庫に入れに行く。
 せとかはなおも己の腹の辺りをさすりながら、小さく首を傾げた。

「穴を塞いだ後すぐにメガ盛りパフェを食べられたのは、力の放出の直後だったからですか。……変な感じですね、これっぽっちで腹が満たされるとは」

「普通なんだけどね。ていうかさ、何か日常も、すっかり普通になっちゃったわね」

 う~ん、と伸びをしながら、はるかが言う。
 毎日のように湧き出る魔をぶちのめしていた日々からすると、退屈と言えなくもない。

 だが悪いことではないはずだ。
 むしろ全体的に、良いように転がっている。

 平和な日々が戻り、はるかは土門と、せとみはおそらく由梨花とよろしくやるだろう。
 はるみが華道部へ行ったのは、女子力を上げるのだという理由もあるらしい。

「さて、じゃあ柔道部に寄って、土門くんと帰ろうかな。せとみも華道部に寄るんでしょ」

 台所から戻ってきたせとみに、はるかが声をかけた。
 せとみはちょっと顔をしかめる。

「寄ろうと思って寄ってんじゃねぇ。毎日攫われるんだよ」

「え、そうなの?」

 ここしばらく、せとみは毎日華道部に寄って、由梨花と帰っているようだった。
 てっきり上手くいってるのだと思っていたのだが、実際はせとみの意思で寄っているのではないらしい。

「はるかと別れた後、校門に行く途中で掻っ攫われる」

「誰に? 真行寺さん?」

「……但馬だろ」

 あ~、と皆納得する。
 あの執事なら、最早何をやらかしても納得できる。
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