結構な腕前で!
「南野さんは、そのままでいいですよ」

 思わず声に出してしまった萌実に、せとかが言葉を返した。
 ん、と萌実が顔を上げると、せとかはすぐに話題を変える。

「それにしても、静かになったものです。通常の部活って、こういう感じなんですかね」

「そうですねぇ……。まぁここまできちんと設備のある茶道部ってのも珍しいでしょうけど」

 和室はあっても、茶室まで備えた部活などないだろう。
 しかも他の部活の喧騒も聞こえない山の中に。

「茶道は環境も大事なんですけどねぇ」

「でも魔が出る環境は、茶道には必要ないですよね」

 萌実が言うと、あはは、とせとかが笑った。

「そうですね、確かに。でもこれで、ようやく本来の作法を南野さんに教えられます」

 そう言って、せとかは萌実と場所を変わった。
 促されるまま、萌実がお茶を点てる。

 野点では簡素化した手順だったが、茶室では正式な作法だ。
 数えるほどしかやったことのない難しい手順を時折教えられながら踏み、どうにかせとかの前に茶碗を置いた。

「結構な腕前で」

 お茶を飲み干したせとかが、茶碗を置いて萌実に笑いかけた。

「いやいや先輩。魔はもういないんですから、そこは通常でいいでしょ」

「いや、魔との付き合いがあったからこそ、茶道の腕前も上がってるんですよ。気付きません? お茶の泡が、とてもきめ細やかで柔らかい。魔を殴り倒しているうちに、腕に力がついたのでしょう」

 あんぐりと、萌実がせとかを見る。
 喧嘩の腕っ節が上がった、ということか。

 確かにお茶を点てるのは、なかなか力仕事だ。
 手首のスナップが命である。

「これこそが、我が流派の真髄ですよ」

 にこにこと、せとかが懐から出した紙には、流麗な文字で流派が書かれている。

『魔練流茶道道場』

「これが家の正式な流派名です。魔で鍛錬するっていう意味で」

「え、いやでも、魔はもう出ない……ですよね」
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