結構な腕前で!
「不思議だ」

 ぼそ、と萌実が言う。
 こんな変な学校、皆怖がって入学を躊躇うのではないか?

 大体在校生の誰一人、怖がってないのが不思議だ。
 まぁだからこそ、妙な噂も、よくある学校の怪談的に軽く考えていたのだが。

「それは学校の考え方の勝利よね。部活動を活気づけて、皆が生き生きしてれば、悪い空気は払拭されるでしょ。部活動も強くなる。そうなると、その部に入るために、また新入生が増える。で、また部活動が活気づく。上手いやり方よね」

「でも実際おかしなものが、学校にまで出て来たことはないよね」

 萌実の見たところ、実際に魔と戦っているのは茶道部だけのようだ。
 それに、杏子は面白そうに目を細めた。

「だから、学校を守るために、茶道部が出来たんだって」

「……いやだから。何で茶道部」

「それは北条先輩のお家が茶道の家元だからでしょ」

「えっ! そうなの?」

 思わず萌実は目を見開いて杏子を見た。
 考えてみれば基本的なことのような気もするが、そんなこと初耳だ。
 案の定、杏子は冷めた目で萌実を見た。

「ちょっと。そんなことも知らないの? 入部したてでもないのに」

「つか、そんなことよりも強烈な出来事が多すぎて……」

 若干眩暈を覚えながら、何気なく廊下に目をやった萌実は、そこにせとかの姿を見つけた。
 いつものように長めの髪を後ろで括っているので、せとかとわかる。

 制服のときは眼鏡をかけているのも知った。
 ちなみに部活のとき眼鏡でないのは、魔の相手をするのには返って邪魔だから、とのことだ。

「萌実はさぁ、もう一人の北条先輩よりも、あれのほうがいいの?」

 杏子が顎で廊下を歩くせとかを指しながら言う。
 『あれ』呼ばわりだ。

「どう考えても、もう一人の北条先輩のほうが良くない?」

「う~ん……」

 これまた曖昧に、萌実は唸った。
 入学してからというもの、校内の人気の傾向を見てみても、断然せとみに軍配が上がる。
 というより、せとかは存在自体忘れられがちというか。

「あの先輩、存在感なさ過ぎ」

 ばっさりと杏子が斬る。
 そうなのだ。
 せとかのほうは、学校内では恐ろしく存在感がない。
 雰囲気もぼーっとしているし、まるで空気である。

 対してせとみは派手というか。
 人当たりが良く、モテているようだ。

 せとかは髪が長く、表情がわかりにくい上に眼鏡でさらに顔がわからず、暗い雰囲気、と思われているようだ。

---でもいいもんね。せとか先輩の真の姿を知っているのは私だけ---

 虫がつく心配もない。
 一人ほくそ笑んでいた萌実だが、その『真の姿』は良い面ばかりではないことを思い出し、知らず笑みはため息に変わるのであった。
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