結構な腕前で!
「南野さん。たまにはお茶を点ててみますか」

 しゃくしゃくとかき氷を食べながら、せとかが萌実に言った。

「あ、はい」

 入部してからは、袱紗の使い方やお茶の頂き方などは教わったが、まだ実際にお茶を点てたことはない。
 というか、それどころではないのだ。

 いつ魔が襲ってくるかわからない。
 そう考えると、そんな状況でのんびりお茶を点てられるここの部員は凄い。

---けど私も相当慣れて来た---

 いきなり魔が現れるとビビるが、それはいきなりな出現にびっくりするだけで、ドッキリのようなものだ。
 一瞬『うわっ』と思うだけで、怖くはない。

 何故ならせとかやせとみが教えてくれた通り、萌実はある程度守られているようだから。
 全ての魔が萌実を避けるかはわからないが、前のように大きな魔であっても、魔は不用意に萌実に攻撃はしないらしい。

---それに、やっぱりせとか先輩は守ってくれるしね---

 そこを考えると、やはり茶道部に入ってよかった。
 憧れの先輩が守ってくれるのだ。
 こんな幸せがあるだろうか。
 ……例え避雷針として、結果的に守ることになっているだけだとしても。

「じゃあ、どうぞこちらへ」

 せとかが動いて、自分のいた場所を空ける。
 萌実が座ると、すぐ横について作法を教えてくれる。

 やたらと細かい作法には四苦八苦するが、この時間は至福の時だ。
 どうしても上手くできないときは、せとかは後ろから手を取って教えてくれる。

 こういうひと時を求めてこの茶道部に入ったのだ。
 魔と戦うためではない! と強く思うのだが、生憎そういう甘い考えを嘲笑うかのように、今日も畳の隙間から、じんわり煙が立ち上る。
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