結構な腕前で!
「出やがったなぁ!」

 さっきまでのほのぼのした空気を、せとみの声がぶち破る。

「せとみ、加減しなさいって」

「氷の器、倒さないでよ~」

「「かき氷がこぼれたら、べったべたでえらいことになるんだからね~~っ」」

 きゃんきゃんと言いつつも、はるかとはるみはすでに壺を手にしている。
 毎度のことながら、あれはどこに用意しているのだろう。

「おらぁ!」

 ずばこん、と一切の躊躇なく、畳に扇を突き立てる。
 まだ出て来てもいない状態の煙は、呆気なく霧散した。

「ていうか、せとみ先輩。こういうのって全部魔なんですか? 魔といっても、皆が皆悪い奴らじゃないかもですよ?」

 あまりの早業に萌実が言うと、せとみは、ぱ、と扇を開いてぱたぱたと己を扇いだ。

「何言ってんの、萌実ちゃん。『魔』だよ、『魔』。『魔』っていう時点で良いもののわけないでしょ? 大体煙の状態で、もわ~んと出てくる辺りが辛気臭くて嫌だね」

 えらいざっくりした判断の仕方だ。
 まぁせとみはせとみで、魔を感知することが出来るらしいし、ちゃんと攻撃対象であるがどうかぐらいは見極めているのだろう。
 若干頭を痛めていると、不意にせとみが、ずいっと萌実に顔を寄せた。

「優しいねぇ、萌実ちゃん」

「うえぇぇっ? な、何でですかっ」

 いきなり至近距離に顔を寄せられ、萌実は思いっきり仰け反った。
 せとみの顔はせとかと同じだ。
 憧れの顔を間近に寄せられると心臓に悪い。

「魔の中にも、良い奴がいると思うんだ?」

「い、いえ、いるのかもなぁ、と」

 わたわたと焦りながら、萌実はじりじりと後ずさる。
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